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前橋地方裁判所 昭和54年(行ウ)2号 判決

原告 田村登

被告 笠懸西部土地改良区

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対し昭和五四年三月一五日付けでなした別紙一(換地目録)の「従前の土地」欄記載の各土地についての換地処分、及び清算金決定処分を、いずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

被告は、群馬県新田郡笠懸村の山際・清水、前鹿田中、前鹿田下、西鹿田及び間野谷の五地域を施行地区とし、昭和四〇年三月二四日群馬県知事から設立認可を受けた土地改良区である。

原告は被告の組合員であり、被告の施行する笠懸西部土地基盤整備事業(以下「本件土地改良事業」という。)の施行地区(以下「本件施行地区」という。)内に、別紙一(換地目録)の「従前の土地」欄記載の各土地(以下これらを、同目録と字名と地番により特定し、例えば「従前地北口一七〇八」のように表示する。)を所有していた。

2  本件各処分の存在

被告は原告に対し、本件土地改良事業の施行者として、昭和五三年三月三一日群馬県知事に認可された換地計画に基づき、昭和五四年三月一五日付けで、従前の原告所有地につき、別紙一(換地目録)の「換地欄」記載の各土地(以下これらを、同目録の字名と地番により特定し、例えば、「換地天神三五〇四」のように表示する。)を換地として指定する旨の処分(以下「本件換地処分」という。)、及びこれに伴う清算金として一五万二四九三円を徴収する旨の処分(以下「本件清算金決定処分」といい、本件換地処分と合わせて、「本件各処分」という。)をした。

3  本件換地処分の違法

しかしながら本件換地処分は、以下のとおりいわゆる照応の原則及び公平の原則に違反するものであるから、取り消されるべきである。

(一) 照応の原則違反

本件換地処分は、照応の原則(土地改良法(以下、単に「法」という。)五三条一項二号)に違反する。

換地処分において要求される照応とは、従前地の農用地としての条件(位置・地積・用途・土質・水利などの利用条件・自然条件)の良否を換地に反映し、かつ、各権利者に対する換地処分が公平に行なわれることをいう(それゆえ、原地換地が原則とされるべきである。)。そして従前地数筆とその換地一筆が個別的に、かつ、全従前地と全換地とが右照応の原則に適合し価格的にも均衡がとれていなければならない。具体的にいうならば、換地は別紙二記載の基準に従つてなされるべきところ、本件換地処分は、以下のとおり換地一筆とその従前地が個別的に照応せず、換地全体と従前地全体もまた照応していない。

(1) 換地天神三五〇四について

(ア) 従前地北口一七〇八は粘土質で水持ちの良い水田であり(換地と用途が異なる。)、従前地小仁田一一八七は南及び東に道路があつて日当りが良く耕土も深い土地であり、従前地小仁田一一九八は原告宅地(従前地小仁田一一九四、換地小仁田三六二三)に近いため、耕作に便利であり日当りもよかつた。なお従前地小仁田一一九五の一は原告宅地に接しており、従前地小仁田一二〇五の二も原告宅地の至近にあつた。

(イ) しかるにこれらの換地天神三五〇四は、その西側に接している道路からの奥行が最大七三メートルもあり、しかもその北辺は西から二五メートル東へ行つた所から北へ一八メートルも幅が広くなる不整形な土地であつて耕作に不便であり、地力もない(この換地は、従前地のうち前四筆と位置を異にし、小仁田一二〇五の二とは位置を同じくするが原告宅地に近い部分が訴外人(小内連子)に対し換地指定されてしまつた。なお換地天神三五〇四は、原告が従前耕作していた小仁田一一九七、一一九八、一二〇五の二、一二〇六、一二〇三、一二〇四、一二〇六の二の位置に相当するので、これら七筆を従前地として原地換地をするのが相当である。)。

(2) 換地天神三四九二について

従前地小仁田一一九七は原告宅地から近い位置にあつたのに、これに対応する右換地は、原告宅地から遠距離の飛び離れた位置にある地力の乏しい土地であつて、耕作に不便であり、集団化の要請にも反する。

(3) 換地小仁田三五一九について

右換地は、これに対応する従前地四筆の位置と異なつており、また地目も水田であつて従前地と異なる(右換地は、従前地小仁田一二〇七、一二四八、一二四七の一、一二四七の二とほぼ同位置にあり、これらの従前地に対する換地として指定されるべきである。)。この換地は、同位置にあつた右四筆の従前地よりその東側に接している道路からの奥行が深く、道路に接する面も少なくなつた。また表土を二五センチメートルもとられたため地力が低下したうえ、訴外人所有の牛舎の北側にあるため、悪臭があり通風も悪い。

(4) 換地小仁田三五三三について

従前地七筆はいずれも現況畑であるのに、換地は水田であるから地目が異なるし、位置も異なつている。そして、従前地七筆はいずれもその接する道路からの奥行が平均四〇メートル以下であるのに、換地は奥行が百メートルもあり、中央には六〇センチメートルの段差があつて南半分は表土を五センチメートルとられたので地力が低下している。なお右換地の北側に隣接する二筆の換地が四等位に評価されているのに右換地は三等位とされており、土地評価が不公平である。

(5) 換地小仁田三五八三について

右換地は、これに対応する従前地小仁田一一八七の二の位置と異なつており、地目も田であるから従前地の畑とは異なる。また右換地は水持ちが悪く水田としては耕作不能であり、東には段差もある。

(6) 換地小仁田三五八四について

従前地小仁田一二七二は、障害物のない長方形であるうえ水利もよく、付近では一番良好な水田であつた。しかるに、右換地は、従前地と位置・地目が異なり、また東に神社の大きな杉の木が繁茂している日陰地である(右換地は、換地前の小仁田一二一三、一二一二の二、一二一三の二の位置に相当するので、むしろ、右三筆に対する原地換地として指定されるべきである。もつともこの換地は右三筆より神社に接する面が二倍にもなつている。)。

(7) 換地小仁田三五九三について

右換地の従前地四筆は全部田であり、換地の畑と用途・土質・自然条件・位置が異なる。のみならず従前地小仁田一二三四、一二四八は、それぞれその接する道路からの奥行が一五メートルの角地であり、最も耕作に便利であつたのに反し、換地はその東側に接する道路からの奥行が四〇メートルもあり、墓地や神社の立木に接するなど、従前地より不利になつている(右換地は、従前の小仁田一一八六、一一八五の一、一一八八、一一八七、一一八七の二の五筆に相当する位置にあるから、これらの土地に対する換地として指定されるべきであり、面積も四四二六平方メートルにされるべきである。)。

(8) 換地小仁田三六二四について

右換地は、従前地と位置を異にして小仁田一一九五の二宅地と同一一九五の一畑に相当する位置にあり、昔から倉庫等が建つていた土地であるから、これを畑として換地したのは不当であるし、従前地に比して日当りも不良である。右換地の場所は、土地改良によつて全く利益をうけないので、法六六条に基づき、土地改良区から除外されなければならない。

(9) 換地小仁田三六二三について

従前地小仁田一一九五の二に対しては、右換地ではなく、換地小仁田三六二四を換地として指定すべきである。ただし右換地も、土地改良によつて全く利益をうけないから、同じく土地改良区から除外されるべきである。

(10) 換地九筆全部と従前地二八筆全部について

(ア) 従前地と比較すると、換地は全体としてその接する道路からの奥行が深くなり、また、いわゆる飛換地を作られた。

(イ) 土地価格の高い従前地小仁田一二四八、一二三四に対して土地価格の低い土地を同じ面積で換地指定されたため、その時価評価の差額相当の損害をうけた。

(ウ) 表土をとられ地力の低下した土地を換地として指定された。

(エ) 神社や他人の宅地に接する面の多い土地を換地として指定されながら、同じ面積しか換地指定されなかつた。

(オ) 従前地の有利な条件を無視して、不利な条件で等位評価のみ高い土地の換地指定をうけた。

(二) 公平の原則違反

換地計画における換地処分は、従前地と換地相互間のみならず、各組合員間でも公平が保たれるべきであるのに、被告は以下のとおり、一部組合員に対し極端に有利な換地処分をしているから、本件換地処分は公平の原則に反し違法である。

(1) 組合員大沢日出夫について

同人に対し別紙三の番号(1)記載のとおりの換地処分がなされたが、宅地・畑は従前地と同じ位置に換地されており、また従前地の田は最も条件の悪い位置にあつたのに換地の田はいずれも広い道路に面し、また各換地とも角地で奥行も短かい。なお換地基準より増歩となつている。

(2) 同岩崎照男について

同人に対し別紙三の番号(2)記載のとおりの換地処分がなされたが、換地である宅地の位置は従前地と同じであり、従前の畑に対し田が換地され面積も多くなつているし、従前の田が一メートルしか道路に面せず三角形で耕作に不便だつたのに、換地は道路に三〇メートルも面している。また換地基準より一割近く増歩されている。

(3) 同小林直次について

同人は別紙三の番号(3)記載のとおりの換地処分を受けたが、自宅から五〇〇メートルも離れた従前地天神一四四九の土地の換地として自宅近くの土地を飛換地で取得したうえ、他の従前地は奥行が深く耕作に不便であつたのに、換地はいずれも角地であり、道路に面する部分も合計三〇メートル以下から合計二〇〇メートル以上となつた。

(4) 同小内清市について

同人に対し別紙三の番号(4)記載のとおりの換地処分がなされたが、従前地は利用条件の極めて悪い土地であつたのに、換地は幹線道路に三〇メートル面している。

(5) 同小内文次郎について

同人に対し別紙三の番号(5)記載のとおり換地処分がなされたが、従前地面積が四九八平方メートルであるから換地基準面積は四九五平方メートルであるのに一〇三八平方メートルもの土地を換地され、増歩は一〇割以上に及ぶ。

4  本件清算金決定処分の違法

(一) 清算金は換地処分によつて生じた損害を補償するものであるから、適正な清算金額を算出するためには、従前地及び換地の価額が正当に評価されなければならないところ、右評価は換地処分時における自由取引価格に基づいて行なわれるべきである。

(二) しかしながら、本件土地改良事業においては昭和三五年当時の取引価格を基準にして評価額を決定しているばかりでなく、各土地の等位評価も不当である(原告が指定を受けた各換地は、いずれも不当に高い等位に評価されているのであつて、これを正すならば、原告の清算金は逆に交付清算金となる筈である。)。したがつて本件清算金決定処分は、違法である。

5  よつて、原告は被告に対し、本件各処分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  同1及び2の事実は認める。

2  同3(一)の事実中、冒頭部分の主張は争う。(1)ないし(10)のうち、各換地指定が照応原則に反するとの各主張は争う。

3  同3(二)の冒頭部分の主張は争う。(1)ないし(5)のうち別紙三記載のとおりの換地指定がなされたことは認めるが、これらが原告に対する換地指定との公平を欠くとの主張は争う。

4  同4の主張は争う。

三  被告の主張

1  本件土地改良事業の経過

被告土地改良区の設立から換地処分公告に至るまでの本件土地改良事業の経緯は、別紙四記載のとおりである。

2  本件換地処分の適法性

(一) 照応の原則について

(1) 本件土地改良事業は、ほ場整備事業であるが、この事業は農用地の改良・開発・保全及び集団化を目的として、細分されている農地を大型ほ場に整備すると共に、道水路を新設・拡張・改良して農業経営の改善を企図するものである。

それゆえほ場整備事業の換地計画においては、道水路のための共同減歩や土地区画形質の変更等がなされ、また農用地の集団化(法五二条三項)が図られるから、換地指定にあたり従前の位置を基準とすることは事業本来の目的を阻害する虞があるので、土地改良法の照応の条件にも「土地の位置」が明示されていないのである。

したがつて、法五三条一項二号にいう照応の原則とは、従前地と換地との個別的均衡ではなく、同一人の耕作に係る従前地と換地とについて、同条項に定める諸条件を総合的に勘案して、当該換地がその従前地と概ね同一条件にあり、かつ、当該換地地区全域にわたりすべての換地がほぼ公平に定められるべきことと解するのが相当である。

また、集団化の目的とは、分散化している土地の団地化、地帯別団地の設定による土地利用の高度化、さらに土地利用体系の整備による農業生産組織体の共同化・協業化への指向を促進し、経済性の高い機械化の実現を図ることを通じて農業経営の合理化及び農業構造の改善を行うことをいう。

(2) 本件土地改良事業における換地計画は、次の点を基本方針とした。

〈1〉 経営の合理化を図るため、できるかぎり集団化する。

〈2〉 地帯別団地計画を考慮して行う。

〈3〉 各部落間の出入作を調整して、部落寄りに換地する。

(3) 原告の従前地と換地との個別的均衡について

〈1〉 換地天神三五〇四について

換地天神三五〇四は、従前原告の所有していた小仁田一二〇六、一二〇五の二、一二〇四、一二〇三の各土地に相当する位置に指定されているから、地力の差異はない。これらの従前地は、形状が細長く、特に西側には水路があつて西側からの進入には制限を受け、また東側半分を耕作するときは旧道より迂回しなければならなかつたが、工事施行後は換地の南側及び西側に接して道路が設置され、近代化農業の経営が可能となつた。

〈2〉 換地天神三四九二について

右換地は原告居宅から約八〇メートルの距離にすぎず、かつ南側と西側が新設道路に接し、耕作には至便の土地である(なお原告の従前の所有土地は自宅より約六〇メートル離れていたものもあつたが、換地はほとんど自宅付近に配分され、遠いところでも二〇〇メートル程度である。)。

〈3〉 換地小仁田三五一九について

本件土地改良事業は、地帯別団地(畑を集落付近に集め、他を水田地帯とする。)の設定計画により実施し、時代の要請に従い、畑を減らし水田を増加させた。その結果、原告が従前所有していた畑の総面積より換地された畑の総面積が減じ、水田総面積が換地指定により増加されたことは当然のことである。なお前述のとおり、換地は従前耕作又は所有していた土地を総合的に判断して適切な位置に指定するもので、個々の従前地と指定換地とを対照して比較することは当を得ない。なお換地小仁田三五一九の土地は、二辺が新設された道路に接しており、居宅からも近く耕作に至便の土地である。

〈4〉 換地小仁田三五三三について

右土地は本件土地改良事業の施行地区内でも最も耕作条件が整つた理想的な水田であつて、原告の従前の水田の分散状況から勘案すると、原告の主張は全く失当である。また、右換地は、北側に隣接する二筆の換地に比較し、道路に接した間口が六〇メートルと倍以上も広く、面積も約三倍あつて、機械化により省力しうる優良農地である。したがつて、隣接地より等位が上位にあるのは当然である。

〈5〉 換地小仁田三五八三について

右土地は大部分が従前原告の耕作地であつたところを、整形のうえ換地として指定したものである。

〈6〉 換地小仁田三五九三について

右土地は、原告が従前耕作していた土地の位置とほぼ一致しており、日照通風には全く支障がない。なお畑面積の減歩の理由は、〈3〉で述べたとおりである。

〈7〉 換地九筆全部と従前地二八筆全部について

飛換地とは、法五二条二項に規定されているように、土地改良事業の施行に係る地域を数区に分けて、それぞれ換地計画を定める場合に問題となることである。しかるに本地区の土地改良事業においては、地区を数区に分けていないので、飛換地は存在しない。

(4) 本件換地処分は、前記(1)・(2)のとおり、法に規定する照応の原則に従つてなされたものであり、また、各土地の評価は後記3のとおりなされたものである。

本件係争地一帯は、農用地としての条件からみれば殆んど同一視しうる環境であり、換地の位置にも、原告の従前地の全部についてその所在位置が十分考慮されている。

本件換地計画においては、原告の従前の土地総面積二万三一九〇・三九平方メートル(二八筆)、この換地交付基準面積二万三〇九二・九九平方メートルに対し、換地として総面積二万三一〇四・二二平方メートル(換地交付基準地積に対し一一・二三平方メートルの増歩)九筆が配分されており、集団化率も、地区平均四一・二パーセントのところ、原告の場合は五〇パーセントと良好である。

したがつて、本件換地処分は照応の原則及び集団化の要請に反していない。

(二) 公平の原則について

本件換地処分につき、原告主張のような、原告と他の組合員との間に不公平はなく、公平の原則に違反するとの主張は失当である。なお、小内文次郎は、小内康夫との交換によつて取得した三筆(合計一〇一三平方メートル)のうち一筆(小仁田一一一二番二、畑五一五平方メートル)についてその移転登記が未了であつたところ、これについても換地処分を受けたため、登記済みの従前地に比べ、換地面積が増えた形になつているにすぎない。

3  本件清算金決定処分の適用性

(一) 清算金の本質について

土地改良事業における清算金は、施行地域内にもたらされた農用地の価額の増加を一定時点において金銭に換算して、これを各権利者に平均的に分配し、照応の原則に反しない程度の各換地相互間の不均衡を是正したものである。

(二) 清算金算定評価の時期について

したがつて、清算金の基準時は、土地改良事業の施行に伴う価額の増加の不均衡が顕在化する時点と考えられる工事概成時が相当である。本件土地改良事業においては昭和四〇年に工事が概成し、その直後の同年一二月一日、全権利用に対して一時利用地が指定され(この時から従前地の使用収益権限が一時利用地に移転する。)、右一時利用地がそのまま換地に移行したのであるから、一時利用地指定の時点において実質的な権利移動がなされたものと捉えて、これを清算金算定の基準時としたのである(法五四条の二第四項は清算金は換地処分の公告の日の翌日に確定する旨規定するが、これは、工事概成時点で発生した抽象的な権利義務が換地処分の公告によつて具体化する趣旨とみるべきである。)。

(三) 評価額について

農用地の価額は、耕作上の収益を基礎として算定されるべきところ、この観点からなされる最も代表的な公的評価は、収益的財産税である固定資産税の課税標準である(右課税標準は、収益価格とされている。)。したがつて、清算金算定の基礎として依拠すべき土地価額は、固定資産の評価価格を採ることが適正であり、本件土地改良事業においても、これを根拠とし、更に工事実施当時の取引価額を参考として土地の価額を決定したものである。

ちなみに、群馬県農業会議所昭和四一年発表の笠懸村における農地価格は次のとおりであつて、被告の評価額にほぼ符合している。

等級

田畑別

自作地を自作地として売る場合

三二万円

二四万円

一六万円

二五万円

二〇万円

一〇万円

(反当たり)

(四) 評価の実施について

被告は、被告評価委員会処務規定に基づき、各集落から選出された委員と、理事から選ばれた委員長で評価委員会を構成し、評価委員が工事前後の二回各土地について現地調査を行い、土性・水利・利用条件等の項目ごとに採点し、採点の合計をもつてその土地の評価点数とし、この評価点数をもとに各土地の等位をつけた。そして昭和四四年五月一九日から同月二一日に開催された評価委員会において、右の方法によつて立案された資料に基づき、同四五年三月一三日の理事会を経て、権利者会議においても賛成多数をもつて可決された。

(五) 以上の手続によつて、原告の従前の土地の評価額は計四五八万九七六〇円、原告が指定を受けた換地の価額は計四八二万四三九五円と評価されたので、比例地積清算方式によつて算出すると、原告の清算金は一五万二四九三円の徴収となるのである。

四  被告の主張に対する原告の認否

1  同1(一)、(二)及び(三)は認める。(四)のうち昭和四〇年度に工事が概成したことは認めるが、その余は知らない。

2  同2及び3の主張は争う。

第三証拠〈省略〉

理由

第一本件土地改良事業の経過及び本件各処分の内容

請求原因1及び2の事実は当時者間に争いがなく、右事実に、いずれも成立に争いのない甲第二〇号証、第四四号証(原本の存在・成立を含む。)、乙第六号証の一、二、第一二号証、第一四号証、第四四号証、第四五号証、第四七号証、昭和五七年一二月一三日原告の換地及びその隣接地等を撮影した写真であることに争いのない乙第一三号証、昭和五九年三月二二日原告の換地及びその周辺地を撮影した写真であることに争いのない乙第三六号証、弁論の全趣旨によりいずれも真正に成立したものと認められる乙第一ないし第四号証、証人近藤久雄の証言によりいずれも真正に成立したものと認められる乙第一五号証、第一六号証の一、二、第一七号証、第一八号証の一ないし三(原本の存在・成立を含む。)、第一九号証の一、二、第二〇号証、第二一号証、第二二号証の一、二、第二三号証、証人鈴木三一の証言によりいずれも真正に成立したものと認められる乙第二四号証の一ないし三、第二五号証、第二六号証の一ないし三、第二七号証ないし第二九号証の各一、二、第三〇号証の一ないし三、証人生方勇七の証言により真正に成立したものと認められる乙第五号証、第三一ないし第三三号証および証人田村和万、同近藤久雄、同鈴木三一、同生方勇七、同小内喜久雄の各証言、原告本人(第一、二回。但し、後記認定に反し措信できない部分を除く。)、被告代表者各尋問の結果、並びに弁論の全趣旨を総合すれば、本件土地改良事業の経過及び本件各処分の内容については次のとおり認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

一  本件土地改良事業の経過

1  群馬県新田郡笠懸村は、昭和三六年度に群馬県知事から農業構造改善事業地域としての指定を受けたが、この事業の一環として土地改良事業を推進することとし、昭和三九年九月二一日、本件土地改良事業の施行地域内に土地を所有していた大沢丈一郎ほか四二名が被告土地改良区の設立認可を同県知事あてに申請し、右申請は昭和四〇年三月二四日に認可された。被告は笠懸村の山際・清水・前鹿田中・前鹿田下、西鹿田及び間野谷の五地域を一つの施行地区として本件土地改良事業を行うものであり、原告は被告の組合員であつて、前鹿田中地区において従前地を所有していた。

2  被告は、昭和四〇年四月ころ本件土地改良事業の工事に着手し、同年中には概略これを完成して、道路及び水路の整備、田畑の区画整理等を行ない、原告を含む組合員に対し昭和四〇年一一月二五日付けで土地改良事業施行地域内の各土地につき一時利用地を指定した。

3  被告は土地改良工事前後にわたる土地評価の結果をふまえて換地計画を定めたが、同計画においては、組合員の要望もあり、原地換地(従前の土地と同一の場所に換地を指定すること)を目標としたものの、機械力の導入、耕作技術の改善、居宅と農用地の間の距離(以下「通作距離」という。)の短縮など農業経営の合理化を図るため、できる限り農用地を集団化すること、地帯別に団地化を図ること(農用地について言われる団地とは、機械による耕作作業を中断することなく継続しうる農用地の集まりのことである。)、各部落の部落外農用地を相互に調整して部落近傍に換地することをもつて換地計画定立の基本方針とした。そして、この換地計画は、被告の理事会で承認され、昭和四五年三月二〇日、事業施行地域内の土地につき所有権等の権利を有する者で組織する権利者会議において正式決定された。その後、換地計画は群馬県知事に対する認可申請とその返却が数回繰り返された後、昭和五三年三月三一日に認可に至つた。そこで被告は原告に対し、昭和五四年三月一五日付けをもつて、認可された換地計画に基づき本件換地処分及び本件清算金決定処分の通知をすると共に、その旨を群馬県知事に届け出、同知事は同月三一日右処分があつた旨を公告した。

二  本件換地処分の内容

1(一)  原告が所有していた従前の土地の状況は、次のとおりである。

〈1〉 位置関係 別紙五の一(田村登所有従前地位置図)表示のとおり。

〈2〉 筆数及び団地 田・畑及び宅地の合計二八筆(地目・用途とも田であるもの七筆、地目・用途とも畑であるもの一七筆、地目が田で用途が畑であるもの二筆、地目・用途とも宅地であるもの二筆)、団地数は九団地

〈3〉 地積合計 二万三一九〇・三九平方メートル(田八〇八七平方メートル、畑一万二七九一平方メートル、宅地二三一二・三九平方メートル)

〈4〉 換地交付基準地積(従前地の地積に、換地総面積の従前地総面積に対する割合を乗じて得た地積。法五三条一項三号参照)二万三〇九二・九九平方メートル

〈5〉 換地交付基準額(換地全体の評価額から従前地全体の評価額を差し引いた額((土地改良事業による土地価額の増加分であつて、「増価額」といわれる。))を、各従前地の価額に応じて按分し、従前地の価額に加えて得た額)四六七万一九〇二円

(二)  原告が指定を受けた換地の状況は、次のとおりである。

〈1〉 位置関係 別紙五の二(田村登所有換地位置図)表示のとおり。

〈2〉 筆数及び団地 田・畑及び宅地の合計九筆(地目・用途とも田であるもの四筆、地目・用途とも畑であるもの四筆、地目・用途とも宅地であるもの一筆)、団地数は五団地

〈3〉 地積合計 二万三一〇四・二二平方メートル(田一万平方メートル、畑一万〇八九六平方メートル、宅地二二〇八・二二平方メートル)

2(一)  従前地北口一七〇八、同小仁田一一八七、一一九八、一二〇五の二及び一一九五の一合計五筆につき、換地天神三五〇四が指定されたが、これは、位置的には従前地小仁田一二〇四、一二〇三、一二〇五の二、一二〇六等とほぼ同一の場所に存在する。同換地は、その西側に幅約六メートル、南側に幅約四メートルの道路が新設され、南と西が道路に面する角地である。形状は、北東部分がふくらんでいささか不整形である。なお右従前地のうち北口一七〇八は、原告居宅から約六〇〇メートルも離れ原告の従前地の中で最も通作距離のあつた土地であつたが、本件換地処分により、原告居宅から最も遠い土地(換地小仁田三五三三)でも約二〇〇メートルとなつた(ちなみに、いわゆる飛換地とは、土地改良事業の施行に係る地域を数区に分けてそれぞれに換地計画を定める場合において、一の区に係る換地計画において、他の区の区域内にある土地を従前の土地として換地を定めることをいうのであるが(法五二条二項)、本件土地改良事業においては、施行地区を分けていないので、飛換地は存在しえない。)。

(二)  従前地小仁田一一九七につき、換地天神三四九二が指定された。同換地は、原告居宅から約八〇メートルの位置にあり、これ一筆で一団地を構成する。

(三)  従前地小仁田一二〇六の二、一二一三の二、一一八六及び一一八五の一の合計四筆につき、換地小仁田三五一九が指定された。同換地はその北と東においていずれも新設された道路に面する角地である。なお南側道路をはさんだ換地小仁田三五八六には、訴外人所有の牛舎があり、付近は若干の臭気がある。

(四)  従前地小仁田一二四七の二、一二四七の一、一二〇七、一二〇六、一二〇四、一二〇三及び一一八八の合計七筆につき、換地三五三三が指定された。同換地は東と西においていずれも水路をはさみ道路に面する。なおその北側部分と南側部分とで若干の段差があるが、これは同所が南北に緩やかに傾斜していることが原因である。

(五)  従前地小仁田一一八七の二及び一二六六の合計二筆につき、換地小仁田三五八三が指定された。同換地は北と西において道路に面する角地であり、東に隣接する換地小仁田三五八四との二筆で一団地を構成する。

(六)  従前地小仁田一二七二につき、換地小仁田三五八四が指定された。同換地は北と東において道路に面する角地であり、東には道路を隔てて神社がある。

(七)  従前地小仁田一二三四、一二三一、一二一五及び一二四八の合計四筆につき、換地小仁田三五九三が指定された。同換地は、東と北の一部が道路に面する。形状は、その北西部分が若干削られた不整形である。

(八)  従前地小仁田一一九四及び一一九五の二の合計二筆につき、換地小仁田三六二三が指定された。原告居宅は従前地小仁田一一九四上に所在したが、本件換地処分後も位置を変えることなく、換地小仁田三六二三上に存在している。

(九)  従前地小仁田一二一三及び一二一二の二の合計二筆につき、換地小仁田三六二四が指定された。同換地は、原告居宅のある換地小仁田三六二三の東に隣接するもので、北側は新設された道路に面している。

(一〇)  本件土地改良事業はほ場整備(土地の区画形質を直す区画整理事業と、用排水事業とを併せて施行すること)であるが、このうち整地工は、いわゆる表土扱い(耕作に適した表土を維持しつつ造成する工法)で行なわれた。すなわち、いつたん表土を剥ぎ取つて別の場所に移動したうえ心土(基盤)の切盛・整地をし、その後に表土を戻して整地するものであり、同工事は本件施行地区について一律に行なわれた。

(一一)  原告の換地九筆は、すべて区画が変更され周囲の道路が整備されており、法六六条にいう「利益を受けないことが明らか」な土地は存在しない。

三  本件清算金決定処分の内容

1  工事前の評価

改良工事前の従前地の評価は、前述した五つの地域から一一人の評価委員が選出され、昭和三九年一二月一五、一六日に開催された評価委員会において実施された。右評価に際して、予め館林土地改良事務所から参考資料として交付された同事務所作成の評価基準表(乙第一七号証)にかかげられた採点種目(すなわち〈1〉地味の良否、〈2〉区画の形状及び広狭、〈3〉耕作の便否、〈4〉日照通風、〈5〉用排水の良否、〈6〉通作距離)を参考として、評価委員会が独自に評価基準表を作成したうえ、別紙六(等位別価格表)記載のとおり等位別の評価価額を設定し、組合員の従前地について、別紙七(地区総計表)の「従前の土地欄」記載のとおりに評価した。

而して原告の従前地の評価額は、田が一八五万八三九〇円、畑が二三一万五一四〇円、宅地が四一万六二三〇円、合計四五八万九七六〇円となつた。

2  工事後の評価

改良工事後の換地の評価は、前記五つの地域から一七人の評価委員が選出され、昭和四四年五月一九日から二一日まで開催された評価委員会において実施された。右評価は、工事前の評価と同様の評価基準表に基づいて行なわれ、別紙七(地区総計表)の「換地又は換地処分後の土地欄」記載のとおりの結果を得た。

そして原告が指定を受けた換地の価額は、田が二三七万四三四〇円、畑が二〇四万一五三五円、宅地が四〇万八五二〇円、以上合計四八二万四三九五円と評価された。

3  ちなみに前記の等位別価格表を作成するに際し、田・畑などの地目ごとに各等位に対応した単位面積当たりの評定価額を設定したが、これは笠懸村農業委員会作成の「昭和四一年度、田畑売買価格等に関する調査票」などを参考にして定められたものである。 そして清算金額は、単位面積一平方メートル当たりの増加額(換地全体の評価額を総地積で除したもの)三・五四二一円を基とし、次の算式にて算出した(いわゆる比例地積清算方式)。

○権利者の換地の評定価額-権利者の換地交付基準額(権利者の従前地の評定価額+増加額の権利者に対する配分額((単位面積当りの増加額×権利者の従前地の地積)))=プラスの場合は徴収清算金、マイナスの場合は交付清算金

○原告の清算金額

482万4395円-(458万9760円+3.5421円/m2×2万3190.39m2)= 15万2493円

第二原告の主張に対する判断

一  本件換地処分の違法について

1  原告は、「本件換地処分は従前地と換地が照応しないばかりでなく、他の組合員に対する換地処分との間に公平を欠くから違法である」旨を主張する。

ところで、法五三条一項本文は、「換地計画においては、換地は、次に掲げる要件のいずれもがみたされるように定めなければならない。」とし、その第二号において、「当該換地及び従前の土地について、省令の定めるところにより、それぞれの用途、地積、土性、水利、傾斜、温度その他の自然条件及び利用条件を総合的に勘案して、当該換地が、従前の土地に照応していること。」と規定する(照応の原則)とともに、右法律の規定を受けた土地改良法施行規則(昭和二四年農林省令第七五号)四三条の六は、「法第五三条第一項第二号の規定による総合的な勘案は、当該換地及び従前の土地(法第五三条の二の二第一項の規定により地積を特に減じて換地を定める従前の土地にあたつては、その特に減じた地積に相応する土地の部分を除く。以下この条、次条及び付録において同じ。)の用途及び地積並びに同号に掲げる事項に基づいて評定した当該換地及び従前の土地の等位についてしなければならない。」と規定する。そして土地改良事業とは、農用地の改良、開発、保全及び集団化に関する事業であつて、その目的は農業生産の基盤の整備及び開発を図り、もつて農業の生産性の向上、農業総生産の増大、農業生産の選択的拡大及び農業構造の改善に資することにある(土地改良法一条一項参照)のであるが、このような土地改良事業の目的に鑑みるならば、換地計画に求められる照応とは、その従前地と換地をそれぞれ全体として捉え、それぞれの用途・地積など法律で規定する諸条件を総合勘案してこれが概ね同一であることをもつて足りると解するのが相当である。なお法五二条の五第三号は、換地計画には清算金明細を定めるべきことを規定しているが、これは、土地改良事業が広範な地域を対象とし多数の権利者が関与して行なわれるものであるため、換地処分により権利者間に相当程度の不均衡が生ずることは避け難いところであることを前提として、かかる不均衡は清算金の交付又は徴収によつて調整しようとする趣旨であることは明らかである。それゆえ、各権利者に対する換地指定の間に、清算金による調整をもつてしては解消しえないような重大な不公平がある場合には、当該換地処分は、公平の原則に反し違法との評価をまぬかれないと解する余地がある。

2  そこで、原告に対する本件換地処分につき、それが照応の原則ないしは公平の原則に反しているか否か、以下において検討する(なお、原告は本件換地処分につき、従前地とこれに対する換地とを個別にとりあげて、その各々が照応していない旨を主張するが、照応とは権利者の従前地全体と換地全体とを総合的に観察判断すべきことは前述のとおりであつて、個々の従前地と換地との権衡までも必要とするものではないから、右主張は失当である。)。

(一) 原告所有の従前の土地と、これに対する指定換地の照応について

原告に対する本件換地処分の内容は、前記第一の二で認定したとおりであるところ、右認定事実によれば、

(1) 従前地は二八筆、九団地であつて、一筆ごとの地積が少なく、かつ、散在していたが、換地後は九筆、五団地となり、一筆ごとの地積は多く、土地の集団化も果たされた。集団化率(地区内の従前地の集団化がどれだけなされたかを示す数値であつて、換地の団地数が関係農家数に近ずくほど集団化率は高くなる。)も地区平均四一・二パーセントのところ、原告の場合は五〇パーセントである。

(2) 原告の従前地の地積は二万三一九〇・三九平方メートルであつたが、換地は二万三一〇四・二二平方メートルであつて、差引き八六・一七平方メートル減歩となり、その換地交付率(換地総地積の従前地総地積に対する割合)は〇・九九六となるが、これは本件土地改良事業の平均換地交付率(〇・九九五八)を僅かながら上回る。なお右換地地積は、原告に対する換地交付基準地積二万三〇九二・九九平方メートルに比べると、一一・二三平方メートル増歩になつている。

(3) 土地評価を検討すると、従前地が四五八万九七六〇円であつたのに対し、換地は四八二万四三九五円であつて、評価は上昇している。

(4) 通作距離が大幅に短縮されたことは、第一の二2(一)において詳述したとおりである。

(5) 地力については、前述のとおり表土扱いによる形質改良工事が一律に実施され、原告が指定を受けた各換地についても地力が上昇した。

(6) 地目を見ると、従前地畑に対し換地として田を指定された所があるなど、一部に地目の変更がみられるが、これは本件土地改良事業の実施当時は、畑を減じ収益性の高い田を増加させるという基本方針があつたからである。

(7) 位置的には、従前地二八筆と換地九筆を全体として勘案するとき、換地は概ね従前地の位置に指定され原地換地の趣旨は可能な限り尊重されているのであつて、このことは別紙五の(一)と(二)とを対置すれば明らかである(なお付言するに、法五三条一項は換地計画において勘案すべき条件として土地の位置を規定しておらず(土地区画整理法八九条一項参照)、土地改良事業においては位置的な照応が要請されているとは必ずしも言えない。)。

(8) 形状をみるに、従前地と比較し、換地は全て整形されたうえ、道路の新設などにより道路と接する面が増大し、角地が多くなつた(ちなみに農林省農林局長の通達では、区画の大きさはできる限り長辺一〇〇メートル以上、短辺三〇メートル以上の区画形成を図るべきものとされている。)。

以上のとおり認められるのであつて、これらによれば、原告の従前地二八筆と換地九筆は、これを全体としてその用途、地積、等位等の諸要素につき総合勘案すると、農用地としてはほぼ同一条件にあるものと評価するのが相当であつて、原告主張のように照応の原則に甚だしく反すると判断することは、とうていできない。

(二) 原告に対する換地指定と、他の権利者らに対する換地指定の均衡について 原告は、被告はその組合員である大沢日出夫、岩崎照男、小林直次、小内清市及び小内文次郎に対し極端に有利な換地処分をした旨を主張する。

そこで検討するに、右大沢日出夫外四名に対する各換地処分の存在については当事者間に争いがないところ、前認定(第一)の本件土地改良事業の施行経過と、前掲乙第五号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第七ないし第一一号証の各一、二とを併せて考えると、右大沢らに対する別紙三記載のとおりの各換地の指定は、換地計画の基本方針の下に、法令・通達等によつて定型化されている手順を忠実に追つて行なわれていることを認定でき、これらの者に対してのみ恣意的に有利な換地指定がなされたことを窺うに足りる証拠はない(なお原告はその本人尋問において、右五名以外の組合員らに対する換地処分の内容についてもるる供述しているが、先にも説示したように、自己より相対的に有利な換地処分を受けた権利者の居ることが直ちに換地処分の取消し事由となる謂れはないのであつて、他の多数の権利者との比較においてみると著しく不利益な換地処分、あるいは殊更に特定の者の不利を計つたことが明らかな換地処分のみが、公平に欠けるものとして違法性を帯びると解するが相当である。しかるに本件全証拠を精査しても、原告に対する換地処分についてはそのような事情まで認めることはできない。)。

3  以上のとおり本件換地処分は法令の趣旨に則して適正に行なわれたものと判断しうるのであつて、照応の原則ないしは公平の原則に反するところはない。それゆえ、原告の本件換地処分取消しの請求は、理由がない。

二  本件清算金決定処分の違法について

1  原告は、「本件土地改良事業における土地の等位評価が不当であり、また、昭和三五年当時の取引価格を基準に評価額を決定した違法があるので、これらを前提としてなされた本件清算金決定処分は違法である」旨を主張する。

2  そこで検討すると、まず、被告の実施した土地の等位評価の経緯は前記第一の三で認定したとおりであつて、これによれば、被告においても他の本件土地改良事業と同じく、法令・通達等によつて極めて定型化されている手順に従つて、基準価格の決定・等位別価格表の作成・採点表の作成・土地調査票による採点を経て各土地の等位を決定したことが明らかであつて、その経過に原告主張のような不当があつたことを窺うに足りる証拠はない。

ところで、法五三条二項は、換地及び従前の土地の用途、地積、土性、水利、傾斜、温度その他の自然条件及び利用条件を総合的に勘案して、当該換地及び従前の土地が同等でないと認められるとき等は、金銭による清算をするものとし、当該換地計画においてその額並びに支払及び徴収の方法及び時期を定めなければならない旨を規定しているものの、右清算の前提となる従前地および換地の評定価額をいかなる時点を基準時として算定すべきかについては、全く触れるところがない(ちなみに、法施行規則四三条の六は法五三条一項二号にいう総合的勘案は評定した換地および従前地の等位についてなすべき旨を規定しているが、その等位に対応する価格がいかに定められるべきかについては規定していない。)。

思うに、土地改良法に規定する清算金の制度目的が換地処分にほとんど不可避的に伴う不均衡の是正を図るにあることは既述のとおりであるが、これを具体的に言えば、従前地の評定価額とこれに対応する換地の評定価額とを対比し、換地指定により損失を受けた権利者に対しては損失補償金を交付し、逆に利益を受けた権利者からは不当利得金を徴するものである。そして右のごとき換地指定に伴う損失ないし利益が確定するのは換地処分の確定時であることからすれば、土地評価の基準時は換地処分時とすることが一応考えられる。しかしながら、換地処分時に土地評価を行なうことには技術上の困難が考えられるばかりでなく、そもそも法は、まず土地評価をしてこれを基に換地計画を確定した後に換地処分を行なうことを予定しているから(法五二条の五、同法施行規則四三条の五別記様式第四号)、現実には換地処分時に、土地評価を行なうことは不可能と言えよう。

そこで考えるのに、土地改良工事が概成すれば多くは一時利用地の指定処分がなされ、これによつて改良工事による土地の増価が顕在化するとともに、一時利用地の指定はそのまま換地の指定へと移行するのが一般であるから、工事概成(ないしは一時利用地の指定処分)の時点を捉えて土地評価を実施しても、権利者間の不均衡の是正という制度目的は十分に達しうると考えられる(評価技術上の観点からみると、工事概成から終局の換地処分までは相当長期間の経過を余儀なくされることが多く、従つてその間に当該改良事業以外の事項に基因する土地価額の増減も避け難いところであるから工事概成時をもつて評価基準時とする方がむしろ合理的である。なお農業生産の基盤の整備開発を図る土地改良事業の目的からすれば、従前地及び換地の評価は、その交換価値ではなく使用収益価値に着目してなすべきことは、当然のことである。

これを本件土地改良事業にみるに、前記第一の三において詳しく認定したように、被告は土地改良工事前、後の二回、従前地と換地のそれぞれについて、いわゆる項目別採点方式により土地の等位評価をした上、笠懸村農業委員会作成の「昭和四一年田畑売買価格等に関する調査票」などを参考として、工事概成時たる昭和四〇年を基準時とする等位別価格表を作成し、いわゆる比例地積清算方式によつて本件清算金決定処分をしたのであるから、その経過にとりわけ違法とすべき点は見い出し難い。原告の主張は独自の見解であつて、採用することができない。

3  以上のとおり本件清算金決定処分は適正に行なわれたものと認定できるから、原告の本件清算金決定処分の取消し請求もまた、理由がない。

第三結論

以上の次第で、本件各処分はいずれも適法と認めるに十分であるから、原告の請求は理由がない。よつて本件請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条・民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 春日民雄 市川頼明 宮崎万壽夫)

別紙一、三―七〈省略〉

別紙二

(一) 原地換地を基準にして換地をする。

(二) 宅地及び神社、墓地、山林等障害物の近くの土地は区画を整形する程度とし移動しない。

(三) 日照、通風等条件の良かつた土地がやむを得ず他人の日陰地や墓地に接した場合には、その面積の三倍の増歩をする。

この増歩は評価格を三分の一とし清算金の徴収をしない。接する面積の奥行は宅地、墓地、山林は十メートル、それ以上の立木の場合はその高さとする。

(四) 他人の日陰地であつても自分の宅地前とか宅地続きは主観的価値を考慮して原地換地をする。

(五) お互に距離が近く競合する場合には従前の所有者に換地する。

(六) 距離の近い土地は集団化する。特に水田の場合奥行が百米あるので集団化しないと土地改良の意味がない。距離の遠い土地の集団化は同面積に依る個人間の交換以外は認めない。

(七) 障害物のない地域の土地も原地又はその近くを換地する。

(八) 従前地より遠くへ換地しない。

(九) 集団化している従前地は分散しない。

(十) 道路に依つて囲まれた区画は中心部迄各換地共奥行の長さは同じ位とする。

(一一) 飛換地をしない。

(一二) 他の組合員の土地を分散する場合は集団化を認めない。

(一三) 土地改良法五十三条の一項の二号にある用途即ち水田、畑等従前地に照応した換地をする。畑及び水田が一部水田地や畑地に突出している場合はこの限りではない。

(一四) 隣接地との公平を見ながら換地し役得換地をしない。

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